名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)380号 判決
弁護人Aの論旨第一点、第二点、同Bの論旨第三点、第四点、同Cの論旨第二点、第三点について。
記録によれば原判決は、その事実理由中に於て、被告人五名共謀に係る金百万円の贈賄行為を認定し、その判決理由に於て、被告人野島邦次、同内島久松に対し各刑法第百九十七条の四を適用する旨判示し、その主文第四項に於て右両名に対し、金九十万円を追徴する旨宣言していることをそれぞれ認め得る。弁護人は「金員供与行為の主体は、舟見町であつて被告人等でないから、被告人等に対し没収又は追徴を言渡すべきでない」旨主張しているけれども、本件贈賄行為の主体が、被告人等であることについては、既に他の論旨について判示したところによつて明白であるから、この点に関する論旨はその理由なしとしてこれを排斥すべきである。弁護人は「贈賄者に返還された賄賂を没収するのは兎も角、贈賄者に返還された賄賂で没収不能となつたものを贈賄者から追徴すべき法律上の根拠がない」旨論じているけれども、刑法第百九十七条の四は斯る場合をも規定したものと解し得るから、到底論旨に賛同するを得ない。弁護人は「被告人等は贈賄者であつて収賄者でないから、特別の理由がない限り、賄賂について没収又は追徴の言渡しを受くべきでない。然るに原判決はその理由中刑法第百九十七条の四を挙示したに止まり、何等首肯するに足る理由を示さないで、被告人五名中被告人野島、同内島の両名のみに対し、贈賄額の一部の追徴の言渡をしているものであつて、その理由に不備が存するものである。」旨主張し、また、原判決を検討すれば、判文いささか簡略に過ぎる嫌いがあり、被告人野島及び同内島に対し、金九十万円の追徴を為すに至つた経緯の一切を、これによつて知悉するを得ないことは所論の通りであるけれども、しかしながら、およそ追徴理由を判示するに当つては、収受された一定額の利益が、没収不能の状態となつた事実並に追徴の根拠となるべき法令の適用を示せば足り、特定の被告人に対し一定額の追徴を言渡す所以について迄、悉く具体的に判示しなければならぬものでなく、従つて、判示方法の当否は兎も角、その趣旨に於て、原判決は、前記の要件を最少限度に充足するものと解し得るから、その理由に不備あるものと認め難い。最後に論旨を斟酌し職権を以て原審追徴額の当否を案ずるに、原審並に当審証拠調の結果、殊に当審に於ける証人佐々木二春の証言等を検討すれば、(一)被告人野島、同内島両名の調達した金百万円は、佐々木与作、佐々木二春、佐々木正雄、朝倉浅吉の四名が共同して一旦これを受領すると同時に、一人当り金二十五万円宛分配し、各自これを保管することとしたこと(二)佐々木与作、朝倉浅吉は受領した現金を自宅にそのまま保管して置き、後日舟見町との合併が不能であることを知るや、これを被告人内島の許に届け、以て被告人野島、同内島の両名にこれを返還したものであり、佐々木正雄はその内金十万円を費消し、後日残額金十五万円をそのまま被告人内島の許に届け、さらにその後金十万円を別途に調達してこれを被告人内島の許に届け、以て被告人野島、同内島の両名にこれを返還したものであつたこと、(三)佐々木二春は受領した現金を自宅に持帰り、一旦該金員を文書箱中に入れたが、その後これを銀行預金とし、返還に当つては銀行よりこれを引出し、被告人内島の許に該金員を届け、以て被告人野島、同内島にこれを返還したものであつたこと、(四)被告人野島及び被告人内島は返還された金員を受領した上、金五十万円宛に折半し、或は債務の弁済、その他の用途にこれを費消し、或は自己所有の他の金員とこれを混合し、その同一性を識別することが出来ない状態を作出して仕舞つたものであることを認めるに足る。右事実によれば、佐々木与作外三名によつて収受された本件百万円の賄賂の中、該金員の贈賄者たる被告人野島、同内島の手裡に返還された部分は、金六十五万円であつて、金九十万円でないことが明かであるから、被告人野島及び同内島の両名に対し金九十万円の追徴を言渡した原判決は、審理を尽さず事実を誤認し、その結果法令の適用を誤つたものと言わねばならず、その誤りは判決に影響があるから、原判決は此の点に於て破棄を免れないものである。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)